学校疎開訴訟の医師警鐘
今年6月、福島県郡山市の児童・生徒14人と保護者が、放射能汚染から安全な場所で学べるようにと「学校疎開」を市に求めた「ふくしま集団疎開裁判」。年内にも福島地裁郡山支部が判断を下すのを前に、岐阜環境医学研究所長の松井英介医師(73)が講演し「裁判所には、大切な子どもたちの命を守ることを最優先に考えてほしい」と訴えた。 (小倉貞俊)
「原発事故は人類史上最大の公害。これまで多くの公害で得た教訓は次世代のために何をすべきか考えることだ」
松井氏は23日、同市内の会場で幅広い年齢層の聴衆に呼びかけた。
松井氏は放射線医学が専門で、岐阜大医学部助教授を経て、2003年に同研究所を設立した。産業廃棄物やアスベストなど環境問題と健康被害との関わりを研究。福島原発事故後は、内部被ばくの危険性を広く伝えようと活動してきた。
裁判では市側が「子どもには区域外就学や転校の自由がある」「市は校外生活での放射線量まで管理する立場にない」として全面的に争う。松井氏は弁護団に協力し、チェルノブイリ原発事故による健康被害を対比した意見書を提出した。
松井氏は「食品や呼吸による内部被ばくが恐ろしいのは、時を経て疾患が出てくる『晩発障害』の危険性が高いこと。チェルノブイリでは白血病や小児甲状腺がんの増加が知られているが、たくさんの症例が報告されている」と警鐘を鳴らす。
児童らが通学する7つの小中学校周辺の測定地点19ヵ所では、土壌中の放射性セシウム137(半減期30年)の平均値が1平方メートル当たり18万9800ベクレル。このうちチェルノブイリ管理基準で「移住権利地域」となるのが9ヵ所もある。
松井氏は、ほぼ同程度に汚染されたベラルーシの地域での健康被害の事例を紹介。「事故から数年後、目の水晶体の混濁や白内障、糖尿病と診断される子どもが増えた。先天的な障害を背負って生まれてくるケースも倍になった」
福島では健康被害を避けるために除染が進められているが「安全管理が不十分な現状の除染作業では、かえって住民の健康被害を広げてしまいかねない。放射性物質がなくなるわけではなく、『移染』しているにすぎない」と注意を促した。
そして子どもを守る最優先の対策について、「早く汚染された地域から非難すること」と続ける。
「幼稚園や保育園、小中学校が集団疎開できる権利を国や自治体が保障することしかない。健康被害が出たときにはもう遅い。子どもたちが安心して暮らし、勉強できる環境を整えるべきだ」
東電と政府は高精度検診を
さらに東京電力と政府に対し、安全な食料の自給率100%の実現▽高精度の検診と医療の整備▽放射性廃棄物の仮置き場を福島原発敷地内に造ること-などを提案。「汚染地域では酪農林漁業ができないという前提に立ち、国家百年の計をつくり直すことだ」
質疑応答で「福島県産は食べていいのか」と問われ、松井氏は「きちんと放射線量を検査する仕組みが必要。住民が地域ごとにグループをつくって意見を出し合い、意識を共有することも大事」と助言。裁判の行方には「子どもは『日本の未来』そのもの。健やかに育てられる環境づくりの歴史的な一歩にしてほしい」と期待を寄せた。
(c)東京新聞

