三重大准教授・勝川俊雄 食品の情報公開徹底

-食品による内部被ばくが心配です。公表されたデータや、勝川さんが調査した結果から、どんなことに気をつければいいといえますか。
「今起きていることは、チェルノブイリの後のヨーロッパと似ています。食物ではキノコ、ナッツ、ベリー類、淡水魚など、警戒すべきものはだいたい分かっている。淡水魚は普段イオンが少ない環境にすんでいるので、海水魚に比べてイオンを排出する仕組みが弱く、(水中でイオン化している)セシウムもたまりやすい。店で売っている魚は大丈夫でも、(福島周辺で)釣った魚を食べてしまうことで思わぬ内部被ばくをするおそれがあります」
「ただ1キログラム500ベクレルの川魚やギンナンを少量食べても被ばく量はしれています。セシウムは6万ベクレルの摂取で1ミリシーベルトの被ばくに相当します。年間の内部被ばくを0.1ミリシーベルトにしたいなら6000ベクレルが目安になる。ベクレルの総量を知ることが大事です。ほとんど食べない食品はあまり気を使わなくていい。コメのように年間60キログラムも食べるものは、規制値に収まる1キログラム100ベクレルであっても、年間6000ベクレルの取り込みになります。」
-食品の放射能規制値が下がります。問題点は?
「食品の検査体制は見直しが必要です。放射線の量が小さくなるほど、検査のハードルは上がる。正確な測定には外部の放射線を遮断できるような専用の機器が要ります。検査には10分から20分かかり、測定する試料をミンチにしないといけない。機器も人手も限られているのだから、従来のように牛肉ばかり調べるのではなく、注意しなくてはならない食品を重点的に検査すべきです。国は、自治体任せにするのではなく、専門家を集めて効率的な検査体制を構築してほしい」
不幸中の幸いで、汚染された地域は限定的です。食材や産地を選べば、内部被ばくは低い水準に抑えられそうです。どこまでリスクを避けるかは個人の判断であり、価値観の問題です。どう判断するにせよ、信頼できる情報が必要です。国や自治体は国民の食生活を守るという観点から、情報公開を拡充してほしい。生協や消費者団体が独自検査を始めています。公的機関とは独立の情報を市民の側から発信していくことも重要です。
コメなど、たくさん食べるものに注意。規制値を下げるには測定体制の拡充が必須。
(c)東京新聞 平成24年1月21日
田中公夫・環境科学技術研究所 生物影響研究部長 100万人単位の調査必要

-放射線ががんを起こすのはどうしてですか。
「放射線は、細胞の核内にある遺伝子を傷つけます。それががんにかかわる遺伝子だった場合、細胞が『がん化』する可能性があります。ただし生物は、遺伝子を修復したり、異常が生じた細胞を自殺に導く仕組みを身につけており、簡単にはがんにならない。また、放射線は、免疫などががんの抑制や成長に関連するさまざまな因子に作用します。こちらの方が影響は大きいと、私はみています」
「これまでマウスに、セシウムからでるガンマ線を1日0.05ミリグレイ、400日あてる実験をしました。年間約20ミリシーベルトの被ばくに相当します。原発周辺住民の帰還基準にもなっている線量です」
-その結果は。
「この線量では、放射線をあてなかった群と比べて、どのようながんでも、発生率に差は出ません。この20倍、年間400ミリシーベルト相当になると、がん発生に差はないものの、雌のマウスで20日くらい寿命が短くなりました。この線量は原発周辺で最も汚染された地域にあたります。さらに20倍、年間8000ミリシーベルトに相当する線量では、明らかにがん発生率が増えました」
-放射線を1度に浴びたときと、少しずつ浴びたときの影響は違いますか。
「1回だけの被ばくについては、原爆のデータでかなり分かっています。長期間、低線量を浴びたときのデータは少ない。私たちがマウスで、20ミリグレイを5日間浴びせたときと、1ミリグレイ100日間のときを比較しました。合計が同じでも、長期間浴びた方が、染色体の異常が少なかった。大量に浴びたときと比べると異常は2分の1から3分の1です」
「国際放射線防護委員会は、低線量・長期の被ばくは、健康リスクを2分の1と考えています。だいたい今回の実験結果に沿っている。がんの発生率を比較する計画もありますが、結果を得るには10年かかりそうです。
-マウスの実験は人間にもあてはまりますか。
マウスは寿命が2年程度。がんも人間に比べ早く起きますが、発生の仕組みは同じ。またシーベルトという単位は、人体の各組織に与える影響をならした値です。人でのシーベルトとマウスでのグレイは同じです」
「生物現象は複雑です。20ミリシーベルト程度の放射線の場合、それによる染色体の変化は確認できるけれども、健康にどう結びつくかは解明が難しい。疫学的に影響を示すには、百万人単位の調査が必要です。がん以外の病気も、マウスの実験でデータを示すことができればと考えています」
放射線は遺伝子を傷つけ、免疫などにも影響を与えるようだ。
年間20ミリシーベルトでは動物の発がん率は上がらない。
少しずつ浴びた場合、影響は小さくなる。
(c)東京新聞 平成24年1月23日
上昌広・東大医科学研究所特任教授 安心感 データで示せ

-福島の医療の現状は?
「もともと医師不足なのに、震災後はさらに人手不足がひどい。南相馬市最大の病院でも、250床の病院に医師8人。満足な医療が提供できるわけがありません。放射能などのストレスなのか、見分けはつかないけれども、高血圧、糖尿病など持病を悪くしている人が多い。相馬市のように放射能の影響が小さいところでも、前年度のデータと比較すると、明らかに悪化しています」
「初期に高い被ばくをした住民がいるのは確実です。南相馬では、原発周辺から非難してきた人から、ガイガーカウンターの針が振り切れるほどの線量が出ました。放射線の大量放出があった3月15日は、飯館村などでは、子どもを外で遊ばせていました。土壌の汚染濃度も高い。甲状腺がんは将来出ると思います」
-内部被ばくの実情はわかりますか。
「ホールボディカウンターのデータが、私たちの測定で得られました。南相馬では2800人が測定し、ほとんどの人で、セシウム137の値が、体重1キログラムあたり10ベクレル以下。平均値は低いのです。しかし30ベクレルを上回る子どもが数人いた。体内のセシウム量は1週間くらいで半減するから、この子たちは継続的にセシウムを摂取していたということです。一人一人聞くと、親が放任的で、家庭菜園の野菜などを食べさせていたようです」
「被ばくした子と親に、食生活の個別指導をすると、しばらくして数値はぐんと下がった。またデータを見せられて、被ばく量が少ないと分かった人たちは安心していました。政府が『問題ありません』というよりも、データを知る方が説得力がある」
-これから気をつける点は?
「ウクライナでは、チェルノブイリ事故後10年たって、内部被ばく量が再び上がり始めた。原因は食品の汚染。時間がたつと、あらゆる食品に汚染が広がってくる。日本でもこれから20年、30年、気をつけなくてはならない。ウクライナの研究者は、内部被ばくに関しては、日本の初期対策は成功したと評価しています。汚染された食品の流通を止めたからです」
「投入できる資金も人手も限られている中、ウクライナでは、環境の除染はあきらめ、食品の安全確保に力を入れています。街のあちこちに線量を測定する装置があり、店で売っている食材にもベクレル数が書いてあるんです。日本政府は除染に大量の資金をつぎ込む姿勢ですが、それには疑問を感じます」
平均値は低くても、被ばく量が高い人がいる。
食品の監視は数十年必要。除染より優先すべき。
(c)東京新聞 平成24年1月25日
細谷紀子・東大医学系研究科疾患生命工学センター助教 リスクには個人差

-放射線が遺伝子を傷つける仕組みや修復の仕組みはどこまで分かっていますか。
「放射線は、DNAを直接傷つけるときもあれば、細胞内の水から『ラジカル』というものができ、それがDNA損傷を起こすこともあります。修復ができないと異常が蓄積して、いずれがんになったり、がん以外にもいろんな病気が起こりうるのです」
「修復には、さまざまなタンパク質がかかわっています。複雑な反応であり、現在分かっているのは氷山の一角でしょう。遺伝子の異常で、DNA修復ができない人がいます。そういう人はがんが起きやすい」
-放射線の影響を受けやすい人がいる?
「たとえば年齢によって感受性に違いがあります。子どもの方が影響を受けやすい。線量だけでは説明できない、環境因子プラス個人の遺伝的背景。それらが総合的に作用するのです」
「疫学的にがんが増えると分かっているのは、100ミリシーベルト以上の線量です。ただDNAの損傷は少ない線量でも起きる。100ミリシーベルトより下の線量は、絶対安全というわけではない一方、絶対危険とも言えません。疫学的にわかるのは集団の中の比率です。集団での数値だけでは、個人のリスクは必ずしも決められません」
-子どもを心配するお母さんが多いです。
「私も小学生の子が二人いるので、気持ちは分かります。親は子どもを安全に守りたいという気持ちが強く、リスク情報に敏感になります。今は情報がどんどんリアルタイムで流れてきます。冷静に判断し、対処するためには、ある程度、放射線やがんの知識が必要です。『敵を知る』ことが大事で、そうでないと不安が増幅されがちです」
「むやみに恐れることはありませんが、根拠なく安心しているのもいけません。家族でがんが多発しているとか、そういう人は、医師にアドバイスを求めるのもいいかもしれません」
「リスクを許容できるレベルの人は人によって違います。専門家は、個人の背景や状況を踏まえ、親身に同じ気持ちになって、科学的に分かっていること、分からないことをきちんとしたうえで説明しなくてはなりません。教育も大事です。風化しないよう、起こったときにパニックにならないよう、学校でも社会でも指導する人の役割は重い。放射線の影響の分野はまだ明らかでないことも多く、私も医学研究者として実を引き締めています」
冷静に判断し対処するため「敵を知る」のが大事。
むやみに恐れず、根拠なく安心せず。
(c)東京新聞 平成24年1月26日

