今回、私たちが横浜市への抗議文を提出するにあたり、長年、内部被曝問題に深くかかわってこられた岐阜環境医学研究所所長の松井英介先生からも横浜市へのコメントをいただきましたので 私たちの抗議文とあわせて市長にお届けしました。
「横浜市への抗議文に寄せて」 岐阜環境医学研究所 松井英介(pdf版 460 KB)
東電福島原発事故は、6ヶ月が過ぎた今も収束していません。
事故直後、自然・生活環境に大量に放出された放射性物質、そして今も放出され続けている放射性物質は、厄介なことに見えないし、匂わないのです。
人類史上かつてない規模の放射線汚染に直面した今、私たちに最も求められているのは、放射線被曝とくに内部被曝を常に意識すること。とくに胎児と子どもに発症してくる晩発障害(先天障害、悪性腫瘍、免疫異常など)に注目することです。放射性物質は、今後長期間持続する自然生態系撹乱と健康障害をもたらすことに思いを致し、自治体・市民・専門家は、子どもたちの安全確保のために力を合わせましょう。
約36億年前、惑星のひとつ地球の深海で、私たちヒトの祖先である「いのち」が生まれました。
長い時を経て、オゾン層ができて紫外線やエックス線が抑えられ、太陽が放つ電離放射線をブロックする大気圏がつくられると、生きものが陸に上がっても生きられる環境が生まれました。
植物の光合成も進み、「いのち」にとって理想的な環境がつくりだされていったのです。それが、いま私たちが暮らす地球生命圏です。地球のまわりを丁度果物の皮のように覆っているこの地球生命圏で、私たち人間はじめ様々な「いのち」が、次なるいのちを育み、活動しています。私たちの身体は海の水に近い組成をもち、ナトリウムやカリウムなど塩分がバランス良く保たれた環境=内部環境で私たちの細胞は生きています。体温を一定に保ち、心臓はずっと一定のリズムを刻み、“いのち”の恒常性に支えられて、私たちは生きています。
今回の原発事故で放出されたのは、自然界にある放射線とは違う、人間が人工的につくった放射線です。人工放射線は、ヒトのからだに大きな影響を及ぼします。とくに細胞分裂の速度が速く、代謝が活発な、胎児や小さな子どもは、おとなの何倍も影響を与えます。
放射線被曝は、外部被曝と内部被曝に分けられます。これらを、お互いに相容れない全く違ったものとして認識することが大切です。
外部被曝はおもにγ 線によります。γ 線は組織を貫く力は強いが、体内で遺伝子に傷をつける頻度は、(α 線、β 線に比べて、格段に)少ないと言えます。
これに対して内部被曝の主役はα 線、β 線です。α 線は、体内で飛ぶ距離は短いが、遺伝子に傷をつける力は非常に大きく、β 線はα 線に比べれば弱いが、γ 線よりははるかに大きな力で遺伝子に傷をつけると言えます。
α 線は飛程(飛ぶ距離)が短く、紙一枚通さないので、α 線を浴びても問題はないというひとがいますが、人間の体の中では、約40 ミクロンメートル(ミクロンは1000 分の1 ミリ)飛んで、エネルギーを放出し、そのときまわりの細胞にとても強い影響を与えます。酸素を運ぶ細胞である赤血球、免疫の担い手リンパ球は直径約8 ミクロンメートルですから、たとえば、数ミクロンメートルとか数10 ナノメートルくらいのウラン粒子が体の中に入って一カ所にとどまった場合、絶えず四方八方にα 線を出し、それがまわりの細胞を貫くのです。たとえばウラン238 の5 ミク1ロンの粒子は、17 時間に1 回の割合で崩壊してα 線を出すので、一日に一回か、二日に三回で、年に500 回にも達します。
放射線が直接に細胞核の中にある染色体(遺伝子)を貫かなくても、細胞質や隣の細胞を貫いたときにも、染色体に傷がつけられます。この現象は、近年の分子生物学的研究の成果のひとつで、バイスタンダー効果と呼ばれています。その結果生まれた染色体の異常再結合が次々に受け継がれるミニサテライト変異があることも分かってきました。
私たちの細胞には染色体の傷を治す機能がありますが、繰り返す被曝によって異常な染色体結合が生じ、その形質が受け継がれ、先天障害、がん化、免疫異常などの要因となるのです。
1986 年に起きたチェルノブイ原発事故後、ベラルーシの高濃度汚染地域などでは、先天障害のほか乳がんや甲状腺がんの多発が報告されています。私たちはその経験を重く受けとめ、25 年間のチェルノブイリ原発事故の被曝実態から学び、子どもを高濃度汚染地域から集団疎開させるための対策を東電と日本政府に要求するとともに、横浜市においても子どもたちを守るために最大限の努力をすべきです。
私たちにできる、あるいはやるべき対策を、以下に列挙します。
1、子どもがのびのびと生活できる環境を保つために何ができるか、「内部被曝」を考慮して対策を講ずるべく、ねばり強い話し合いを重ねる。
2、東電福島原発事故が収束していないことを踏まえ、あらゆるデータを公開するよう、東電や国に要求する。
3、ICRP は放射線のリスクに閾値はないとしている。しかし、ICRP のいう許容線量限度値(年間1 ミリシーベルト)は子どもにはとても高い値。ECRR(欧州放射線リスク委員会)のクリスファー・バズビー氏は、これの10 分の1 が、我慢の限界としている。日本政府に、子どもの安全が確保できる許容線量限度値の設定を求める。
4、当面、校庭、園庭、通学路などの線量を測定し、必要な対策を講じる努力は貴重。除染作業などに際し、内部被曝を防ぐための防護を完璧にしなければ、危険(アスベスト除去作業時の防護を参照のこと)。かえって内部被曝を拡げることになる。
5、政府が定めた食品の暫定基準値は高すぎる。妊婦をふくむ成人の許容線量限度値を極力低く定め、子どもには、より厳しい食品許容線量限度値を早急に設けさせる。とくに主食の米・小麦・芋のほか、摂取量の多い食品の許容線量限度値をゼロにするため、全日本的に手をつなぐ。
6、給食で使われる食材の選定には、とくに厳密なチェックが必要。購入先の正確な把握と放射能汚染度測定を政府・自治体にやらせるとともに、自分たちでも独自に調査を行う。市民放射能測定所がすでに各地で活動している。使われている検出器LB200 ヨウ化ナトリウム・シンチレーター 25mm×25mm の検出限界は 20Bq/Kg と高性能。
7、自然環境中放射線量の高い地域では、子どもに積算線量計を配布し、子どもの健康調査・検診と必要な医療を継続して行う。ヨウ素131 とセシウム137 以外の核種(ストロンチウム90 やプルトニウム239 など)についても、検査項目に加えるよう、全国的な大運動を展開する。
8、低線量放射性廃棄物を一般の産廃と同等にあつかうクリアランス制度を廃止する。

コメントを寄せていただいた松井英介先生を紹介します。
松井英介:
1938年生まれ。元岐阜大学医学部放射線医学講座助教授。現在、岐阜環境医学研究所所長。
日本呼吸器学会特別会員・専門医。日本呼吸器内視鏡学会特別会員・指導医・専門医。
主な関連著書:
『国際法違反の新型核兵器「劣化ウラン弾」の人体への影響」(2003、耕文社)
6月25日に新刊『見えない恐怖 放射線内部被爆』(旬報社)を発刊。原爆症認定集団訴訟に長年関心を寄せ、またアス
ベストと健康障害に関しても記事多数執筆。
内部被爆問題に取り組む数少ない専門家の一人。
リーフレット「放射線被曝から子どもを守るために」(NPOセイピースプロジェクト編集・発行)監修者。
http://www.saypeace.org/image/hibakuyobou.pdf

